初めての面接に意気揚々と臨んだ絵里だったが、思うようにいかず撃沈。
その後、麻衣と美里と会って・・・・!?
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◆第29話「心と言葉」
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(麻衣、美里、絵里と喫茶店で歓談中)
美里 …で、結局、JTBは駄目だったワケ?明日東京なのに、大丈夫?
絵里 一応、面接から今日で一週間になるから、結果は待ってるんだけどね。
麻衣 でも、絵里は「落ちた」って思ってるのね。
絵里 そりゃそうでしょ?だって、いきなり圧迫なんて、ありえなくない?
美里 圧迫面接、か…。時々聞くけどねぇ。どんな感じだったの?
絵里 あたしのバイトの話をさえぎって、怖い顔して「それと地域活性化にどういう関係がある?」、「それで旅行代理店で働けると思ってるのか?」って。
…そうだ!そう言えば、初対面の時から下を向いてた。
麻衣 …面接官は短時間に何人もの学生を見るから、書類を整理してただけじゃないの?
絵里 いや、あたしはあれが、圧迫の始まりと見たね。
美里 違うって。だいたい、なんで最初から、そんなことしなきゃいけないのよ?
絵里 浮かれ気分の学生を、出会い頭に戸惑わせて、ペースを乱そうって作戦よ。
麻衣 絵里…。絵里はどうして、そう考えるの?
絵里 先輩が、そういう場合もあるって言ってた。学生の前でわざと足組んだり、煙草をふかして無視したり、怒って質問したり…。人事もかなりのカードを持ってるらしいの。
美里 …てか、最初っから落とすつもりなら、面接なんてする必要なくない?
絵里 いや、面接官は隙あらば、「落としてやろう」って考えてるはずよ。あたし、体験したもん。
麻衣 絵里は、先輩が言ってたから、自分の面接が圧迫だって思ってるの?
絵里 …は?だって、あたしは今回の面接が初めてだったんだから、そう思うしかないでしょ?
麻衣 いや、そういうことじゃなくて、自分で作って持ってる基準はないの?
絵里 それはあるに決まってるじゃない。笑顔で話してるか、ハキハキしゃべってるか、練習した通りに言えてるか…。いろいろあるよ。
(麻衣 また、話が通じてない…)
美里 違う違う。あたしが聞きたいのは、仕事や人生に対する基準よ。
絵里 人生?そんなのさ、いきなり一次で聞かれたりしないよ。
美里 いやいや、そうじゃなくて、笑顔とかハキハキとか言ってるけど、あんた、それ以前に、自分の未来に対して笑顔なわけ?練習とは違ってたらしいけど、練習が違ってたとは思わないの?
絵里 なによ!あんただって、落ちればヘコむに決まってるんだから!それに、あたしは就活サークルで、内定者と一緒に練習してるのよ。内定者がどうして間違ってるわけ?
美里 内定者は間違ってないかもしれないけど、あんたの考え方は正しいの?
絵里 だぁかぁらぁ!あたしは、「内定者」の言った通りにやってるの!だから正しいの!
(麻衣 …こ、これは!「スターリンが言うから正しい」と言った共産主義者と同じだ!)
美里 いいや、あんたの考え方はおかしい。このままじゃ、JALも落ちるわ。
絵里 何ですって!み、美里!なんであんたに、そこまで言われなきゃいけないのよ!
美里 だって、絵里は反省までも間違ってるから。そもそも、働きたいと思ってない。
絵里 …だから、どうしてあんたに、そんなことが分かるのよ!少なくとも、あんたなんかよりは、よっぽどあたしの方が、働きたいって思ってるんだから!
美里 どうしてそんなことが言えるのよ?
絵里 だって、あたしが夏にマナー講座とネイル講座に行ってた頃、あんた、何してた?
あたしがJTBとJAL受けようって言ってた頃、あんた、志望業界決まってた?
麻衣と亘先輩も一緒に合説に行った時、あんた、メーカーとか見てたじゃない。
美里 それとこれと、どう関係あるのよ?
絵里 あんたよりも、あたしの方がずっと前から真剣だった、ってことよ。
美里 は?あんた、考えてた時間が長いからって、勝ち誇ってるワケ?
絵里 そうよ、当たり前じゃない!恋と同じで、先に目を付けた方が勝ちなのよ。
美里 違う。そうじゃない。恋も就活も、相手がいて決まるものよ。片思い同士が勝負したところで、たいした意味はない。そんなのは、中学生がアイドルに憧れるのと同じ、不毛の争いよ。
(麻衣 社会主義ってすごい…。ここまで激してもなお、問題を自覚できないなんて)
絵里 もういい。あんたと話してたって、何も解決しない。
美里 何が「解決しない」のよ?
絵里 決まってるじゃない!あんたには、あたしの悩みなんて、分からないってことよ。
美里 だから、それを解決しようと思って話してるのに、あんたが意地張ってるんじゃない?
絵里 はぁ?あたしは別に、あんたに悩みを分かってもらおうなんて思ってないわ。
美里 いや、別に分からなくていいなら、分かってあげないけど。
絵里 はいはい、誰にも分かってもらえなくたって、あたしはあたしで解決するわ。
美里 だから、あんたがあんたの悩みを解決したって、面接とは関係ないんだって。
絵里 …あんたって、どこまでムカつくの?面接はモチベーションが大事なのよ。心に悩みがある状態で、受かると思ってるの?あんたこそ、その甘さを後悔する時が来るわよ!
(麻衣 すごい、すごすぎる…。絵里には、職業観と会計センスが全く存在しない!)
絵里 もういい!あたし、帰る!もっと役立つ情報も教えてあげようと思ったけど、もういい。
美里 …。
麻衣 絵里、明日、JALの面接なんだよね?絵里らしさを発揮して、落ち着いて頑張ってね。
絵里 やっぱ、麻衣はあたしのこと、分かってくれてるね。じゃあね!
(絵里、帰る)
マスター …あの子、去年よりも、もっとひどくなってるね。
麻衣 はい…。就活サークルとかに入って、もっとおかしなことを言うようになりました。
美里 あたしもついつい、感情的になっちゃった。
マスター あれじゃ、日雇い労働くらいしか受からないだろうね。
麻衣 えっ?
マスター どうして、あんなに自己中心的なんだろうね。
麻衣 マスター、どうして「日雇い」って分かったんですか?
マスター いや、別に…。言葉が悪かったかな?
麻衣 いえ、そういうことじゃなくて、絵里は実際、派遣のイベントスタッフをやってるんです。
美里 あの子は「ライブスタッフ」って言ってるけど。会計的に見れば、日雇いよ。
マスター 今は単調労働にも、カッコいい名前が付いてるからねぇ…。ウチも以前、求人広告を出した時、「厨房業務」って書いたら、掲載期間にわずか5件しか電話がなかったんだ。
で、「時給が低いのか?」、「勤務時間が不規則なのか?」って考えて、リクルートさんに相談したら、なんと、その答えには驚いたよ。
「厨房って字が、読めない人も多い」んだって。そして、「ホールスタッフ」と言い換えたらいい、って言われたんだよ。
さらに、「未経験者歓迎」、「短時間で稼いで、帰りは天神でエンジョイ」、「オシャレなカフェで、香りに包まれた仕事」って書いたらいい、っていうアドバイスももらってね…。
麻衣 それで、どうなったんですか?
マスター 時給も勤務時間も変えてないのに、40件も電話がかかってきたんだ。8倍だよ。
で、そのリクルートのスタッフも、「今後も広告コンサルティングが必要なら、いつでも気軽に言って下さい」って言ってた。
美里 それって、コンサルティングと呼べるのかな?
マスター 僕もそう感じたんだ。でも、さすが代理店だけに詳しいな、とは思ったね。しかし、この前来た森中君の方が、リクルートの社員より、よっぽど深いところを見てたよ。
美里 …「コンサルティング」っていう言葉にも、いろんな意味があるんですね。
マスター 僕はバイトさんの選択肢は増えたから、クライアントとしては満足したんだけど、若者がこんな感覚でバイトや仕事を選んでるとしたら、これは大変なことだ、とも感じたよ。
麻衣 …今、一部の派遣社員の間では、「蟹工船」が流行してるらしいですからね。
美里 純一さんも、「あんな本がベストセラーなんて、日本の教育が19世紀の状態で、隣の北朝鮮と同じレベルだと分かって、恥ずかしいじゃないか」って笑ってた。
麻衣 つまり、言葉を、日本語を理解できない人が、着実に増えてるのね。価値判断基準も、理性もない人じゃなければ、あの本に共感するなんてことは、ありえないから。
マスター 蟹工船なんて、僕らの世代でも既にレトロだよ…。おやじの世代で、やっと追いつく。
美里 日本の教育って、ほんと、大変なことになってますよね。あたし、絶対人材業界にしよう!
麻衣 あの、「時給」って、やっぱり大事なんですか?
マスター う~ん、そうだね。僕はあんまり採用経験はないけど、50円上げたら電話の件数は倍になったよ。
麻衣 それって、「時給が仕事の価値だ」と思ってる、ってことですよね?
マスター そういうことになるね。
麻衣 だから、800円なら800円で、「800円分の働きをすればいい」と思ってるんですよね?
マスター 売上があってもなくても、時間が経過すれば費用が発生するから、僕ら事業主としては、「時給以上に働いてほしい」と思ってはいるんだけどねぇ…。
麻衣 純一さんが、「未開人は、時給が労働の価値だと思ってる」と言ってました。
美里 つまり、800円の時給をもらってる人は、「自分は800円に値する仕事をしてる」と思ってるのよね。
例えば、ここなら「300円」のコーヒーの利益が「100円」だとしたら、「8杯以上」を売って、やっとそこから先が「付加価値」、つまり「自分の本当の働きの価値」になる。
でも、会計と職業観が分からない人は、自分が要する「時給」が働きの価値だと思い込んでるのよね。
麻衣 RUNならみんな読んでる小泉信三博士の本には、給与決定は「労を償うのではなく、功に報いる」と書いてあった。
つまり、「労働は貢献の手段に過ぎない。経費は利益獲得の手段に過ぎない」ってこと。
美里 でも、社会主義を信じる人は、「自分がどれだけ、何時間頑張ってるか」が仕事の価値を決めると思いこんでる。値段を決めるのは、「自分」だと思ってる。
だから、時間を使い切ることしか考えない。こういう前提なら、雇用主と被雇用者は「向き合う」しかなくなる。
会計が分からないバイトは、時給を払ってくれるのは「お客さん」じゃなくて「店」だと勘違いしてる。
麻衣 つまり、発想の中に「本当の相手の存在」がない。いや、あるのに見えない。
だから、全ての価値観が主観的になって、コミュニケーションが全部、一段階ずれていく。
だから、交通費や食事を付けたりするという、間違った方向に採用努力が向かう。研修といっても、あいさつやマナー、PCの使い方を教えるだけでいいと思ってる。
というより、そういうことでもやっていれば、「当社は研修もバッチリ」なんて言う会社さえある。
…社会主義って、なんて恐ろしいのかしら。社員にも、物事の本質が見えなくなるのね。
美里 たった一段階だけど、この一段階が「160年」の差なのよね。純一さんの500項目に及ぶ講義は、全てこの「一段階の時差」を修正する、という観点から作られてる。
マスター なるほどね…。今の学生は、学生運動の頃の学生のように、完全に洗脳されてるね。
マルクシズムなんて、僕の世代でも一昔前だと思ってたのに、まさか今の学生が、そこまで共産主義を信奉してるとは、知らなかったよ。
美里 いえ、信奉してるんじゃないんです。勉強してもいないんです。
純一さんも、よく、「人間のコンプレックスと憎悪とミーハー感情を理論化したら、共産主義思想になる」と言ってます。
元々ある負の情念が、何も勉強しない人には自覚できないんです。だから、目の前の小手先のことに熱中するし、表面的な対策を「就活」だと思うようになるんです。
マスター 今の話を聞いて分かった。世の中に存在する、ありとあらゆる会社、お店の「人の悩み」は、全て社会主義の発想から生まれてるんだ、と。
そして、どうして純一さんが、一円も払わずに他人をあそこまで燃やせるかも、よく分かった。それは、相手に努力の方向と成果を正しく認識させ、評価することができるからだ。
あの人のコンサルティングを受けた会社は、少ない社員が驚くほど努力し、成果を出すようになるけど、要するに、社会主義的発想を除去して会社に調和と団結を作っている、ってことだね。
美里 純一さんに教えてもらった学生も、「休みなんていらない」というほど楽しく、意欲的に働くようになりますよ。RUNの学生や卒業生は、みんなそうなります。
マスター だったら、会計教育は、最強の福利厚生だね。だって、最も根本的なところで仕事のやりがいを作り、調和を生み出し、お客様に尽くして利益が増えていくんだから。
麻衣 やっぱり、経営者の立場から見ても、RUNの勉強はすごいんですか?
マスター すごすぎる。というより、純一さんは、なぜここまで複雑で透明で分かりにくいことを、君たちのような、実務経験がない若者にこうも深く説明できるのか、と思ってたんだ。
美里 あたしもそれが不思議で、質問してみたら、「僕は小卒だから」って言ってました。「学校に行かなかったから、バカにならずに助かって、ウイルスにも洗脳されずに済んだ」って。
麻衣 でも、あの人は英語、韓国語、マレー語、インドネシア語が話せて、フランス語、ドイツ語、ロシア語、タイ語も読める。古典やPCも詳しいし、営業や会計、経済思想には特に強い。
しかも、博覧強記な上に、文章もスピーチも商売もうまい。まるでサイボーグみたい。
マスター だから、あらゆる現象を、即座に、しかもシンプルな例で翻訳できるんだろうね。
これは君たち、内定のもらいすぎに注意しないといけないよ。社長が行列を作るだろう。
・・・・・・第30話に続く。
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